レポート

Oita GROWTH Ventures(おおいたグロースベンチャーズ)採択起業家インタビューvol.5  田島 大輔氏  (田島山業株式会社)

<令和5年度 Oita GROWTH Ventures 採択者>
田島山業株式会社  統括本部長 田島大輔氏 

こちらは、⼤分県成⻑志向起業家育成⽀援事業「Oita GROWTH Ventures(おおいたグロースベンチャーズ)」の採択起業家5者の事業を始めたきっかけやお人柄、今後の展望をより多くの方に知っていただくことと、実際にアクセラレーションプログラムを開始しての現状や、今後本プログラムに期待をされている事業成長(3つのグロース)についてお話をうかがったインタビュー記事です。

5人目は、「豊かな森を未来へつなぐ」をVisionに掲げている、田島山業株式会社統括本部長の田島大輔氏です。

田島山業株式会社  統括本部長 田島 大輔氏

1988年日田市中津江村出身。2011年慶應義塾大学総合政策学部卒業後、「日本の製造業で海外進出もしている”本物のモノづくり”の企業がどんなことをしているのか知りたい」という想いでキヤノン株式会社に入社。
キヤノンで経験を積んだ後27歳で退職を決意。”父が元気で働けるうちに林業について知っておきたい。”という強い意志で帰郷した。

田島家は約800年もの間、先祖代々受け継がれてきた山を守ってきた。

山を受け継ぐ次の世代がその時代の変化に柔軟に合わせて守り方も変えていかなければ、今ある山の姿を存続させることはできない。
例えば、木材用の木を伐った後の山をそのまま放置すると深刻な森林破壊が起きてしまう。しかし、再造林することはコストがかかるため伐採後の再造林率は現在全国平均で3割と極めて低い。さらに、木造離れや外国から輸入された木材との価格競争での木材価格の下落等も重なり、木材の生産販売だけでは成り立たなくなっている。また、労働災害の発生率が高く経済合理性が極めて低い林業に従事する人材が減少していることも大きな課題だ。
そんな、課題の多い林業を受け継ぐということは、決して生半可な気持ちでできることではない。

数多くの困難と対峙してきた背景がありながらも、森を一緒に守ってくれている家族や従業員と共に、”先祖代々受け継いだきた山を守る”という使命感で自分を鼓舞し、時代の流れに沿った戦略と発想で”森の価値の再定義”を行い、木材収入以外の価値の経済化を目指す。

<実績>
■大分県アトツギ向け伴走支援プログラム「GUSH!」プログラム 1 期生
■中小企業庁「アトツギ甲子園」2022 年ファイナリスト
■大分銀行「だいぎんニュービジネスプランター」 特別賞受賞
■アトツギアワード2023 ロングターミズム部門 グランプリ受賞

田島夫妻手作りの田島山業の“みんなの森”で行われた「森のウエディングパーティー」

会社紹介・事業紹介

九州北部に位置する日田市中津江村を中心とした約1,200haの山林のフォレストオーナーでもあり、山の管理や植林、伐採までの一貫作業を自分たちで手がけている。
山の管理は、テクノロジーを駆使して、管理している山にどのように手を入れてきたかや山の現況を少ない人数でも管理・把握できるようにしている。
長年培った熟練のプレイヤーの技術によって生産された”生産者の顔が見える木材”は、工務店や家具メーカー、消費者からも定評がある。

”きちんと守られている森の木をつかってもらいたい。”その想いから、『みんなの森プロジェクト』を立ち上げ、森の中で行うワークショップやイベントに人を誘致し、森を身近に感じてもらうことで森を一緒に守ってくれる人口を増やすという、6次産業化を目的とした取り組みも行っている。
長い期間丁寧に人の手で守られてきた森は、訪れた人の心を魅了する。

さらに現在は、脱炭素や生物多様性保全が国の義務となったことを背景に、田島山業が管理する 1,200ha の森(北部九州最大級)が保有する、生物多様性等の価値を産官学の連携によって商品化し、企業に提供するという新たな取り組みに挑んでいる。

どんな事業成長を目指しているか(3つのGROWTH)

「豊かな森を未来へつなぐ」
~Social GROWTH、Innovation GROWTH~


これまでは山を整備する上で、補助金についての行政との調整業務、生産した木材の営業などがメインだったが、現在は森を使って木材以外の価値をどう作っていくかを模索している。
その中でも、民間企業で全国第 4 位となる約 4,000t/年の森林吸収系 J-クレジットの認証を取得しており、森林の CO2 吸着機能の経済化を目指している。今後は、生物多様性保全や水源涵養への取組が求められている企業に対して、企業が求めるサステナビリティへの活動を把握し連携する提案をしていきたいと考えている。
「CO2削減量を売買するとか、生態系をお金を出して守ることの価値はまだまだ浸透していない。これからのマーケットを作っているという意識でやっています。」

今年新たに加わった2名の社員さんは、信太郎社長の森に対する想いの他、Jクレジットや生態多様性への関心が高く、歴史ある田島山業の技術を学びたいと高い志を持って入社されたという。

「僕みたいな”後継ぎ”って、継承する本人にスポットライトが当たりやすいんです。取り上げられもしないし、大変なところばっかりを一緒に伴走してくれる妻や従業員の方々に、最終的には一緒にやってきてよかった・ここに居て良かったと思ってもらえることが大きなビジョンですし、事業を成長させていきたいという原動力になります。森を日本の未来につないでいくという価値観に共感してくださる方々と共に、森を守る新しい流通を作っていきたいです。」と語る。

Oita GROWTH Venturesで挑戦したいこと

プログラムが始まって数回メンタリングを行っていますが、状況はいかがでしょうか?

「事業活動をするうえで、昨年度エントリーしたGUSH!やOita GROWTH Venturesのようなプログラムが無ければ、家業は親族内で話し合って事業を決定していくしかないんですよね。でも親族間で話すとどうしても感情が出て判断に迷ってしまう。
メンターに事業内容を聞いてもらいながら、自分たちでは知り得なかった方や、出会う可能性が低かったであろう方々とのご縁を繋いでいただき、その方たちとの出会いで事業成長のスピードが上がっています。例えば、取引先の企業さんが僕らの会社のことを深く踏み込んで聞いてきたりすることは基本的にないものです。社訓1つにしても、なぜあの社訓なのか?など、客観的な視点でもう一歩踏み込んで聞いてくれるメンターがいるかいないかで、事業成長のスピードが変わると思うので、その存在は本当にありがたいです。
林業で働く人って、給与は高くないし危険の中に入っていかないといけない。でも元々森づくりが好きだったり環境に貢献したいというモチベーションの方が多く、そんな社員さんたちが”良い人生だった”と思ってもらえる、やりがいを感じて貰える会社になるよう努力していかないといけないと思っています。
森や環境を守っている僕たちが日頃何をしているのか、どんなプレイヤーがいるのか、そこを企業や一般の方にも知ってもらえたらうれしいですね。」

田島山業株式会社
統括本部長:田島 大輔
事業内容:豊かな森を未来へつなぐ

会社HPはこちらから

■取材・文:大塚あかり

■多様な事業成長を支援し、新しい経済と社会価値を創る「Oita GROWTH Ventures」

公式サイト:https://oita-growth-ventures.com/
主催:大分県・公益財団法人大分県産業創造機構(おおいたスタートアップセンター)
運営:KIHARA Commons 株式会社

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