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イノベーションを起こす起業家の知財戦略 具体的な活用事例とは?~「イノベーションを考える起業家が知っておくべき攻めと守りの知財戦略」書き起こしレポート vol.3~

※この記事は「イノベーションを考える起業家が知っておくべき攻めと守りの知財戦略」-O-GROWTH TALK”Innovation GROWTH”- ~書き起こしレポート~ vol.3です。

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木原:じゃあ、ここから私がエアロシールドの話を、ちょっとだけ特許のこと深掘っていきたいなと思っているんですけど。紫外線のUVCという波長を使って、天井付近の床から高さ2.1メートル以上に設置して、紫外線を水平に照射して、部屋の空気は自然対流しているので、その空気の循環を利用して室内の空間全体の空気を効率的に対策できるというような仕組みの製品です。紫外線を水平に照射する、指向性を持たせて飛ばすことで、かつ安全基準の高さとかの制限を設けていて、それによって人には当たらずに空気環境対策ができるというような製品です。エビデンスとかもあるものなんですけど、大きさは一般的なティッシュボックスぐらいの大きさなんで、意外とコンパクトです。元々、医療施設や、介護施設がお客様として多かったんですけど、コロナ禍で人が密集するような場所です設置いただく機会が増えました。日本放送様ではラジオのスタジオで、例えばファンの音とかそういう音さえも厳禁なところでもうちの製品は全く音がしませんので、そういったところでも、効果を発揮する。もしくは、もう換気が本当できないような場所ですごく効果を発揮するものになります。あとはJR西日本様とか重要な交通インフラを担ってる企業さんはそこで感染症で人がバタバタと休んでしまっては困るというところもありますので、そういうBCP対策の観点から使っていただくっていうケースが増えましたね。

東京ドームもそうですし、野球選手の控え室とか、監督の部屋とかですね、そういったところもあります。あと大分空港、空港もやっぱり人が一斉に一度に会するところですので、こういったところの重要性、ニーズっていうのが、このコロナ禍でより見直されたなという風に感じております。

野村不動産様がシェアオフィスの様に、人が密集するので導入していただいたりとか、病院ですと、結構台数を多く導入いただいてるところで言うと東北医科薬科大学様は、検証も色々とご協力いただいたりとかしてる場所でもありますね。あとは大分県内で県立芸術短期大学様っていうのもありますし、高校の調理するとことか、そういったところでも使っていただいております。あと、救急車の中に車載タイプという形を導入していただいたりしているケースもあります。事例としてはざっくりとこういう感じです。

ポイントなのは、うちはメーカーなんですけど対策のノウハウとかデータを保有しています。何をしているかっていうと、人がいる実空間でいま浮遊細菌がどれくらいあるかっていうものを空気をサンプリングして培養して可視化することで、(培養するので)リアルタイムではないんですけど、どういう状況であるかっていうことが把握できる。お部屋の場所とかによって変わってくるので、それに合わせて、感染対策、例えば、院内感染のコンサルティングをしたり、食品衛生のコンサルティングをしたりするっていうところがポイントでした。メーカーなんですけど、ソフト面を提供していたというようなところが、会社の実態だったかなっていう風に思います。

杉尾氏:エアロシールドの特許を取られていて本当にこのエアロシールドこそ特許ですごい強みを発揮する製品じゃないのかなっていう気がします。

これシンプルですね、これは断面図ですけれども、中身どうなっているのかっていうと、ここに紫外線のUVランプがついていて、これを開口部から照射します。クーラーみたいな複雑なものじゃなくてですね、後ろに反射板とかありますけれども、ランプがあって、それを前に出すだけ。これがやっぱり下の方にですね、紫外線が行ってしまうと、普通に部屋の中に人がいる中でこれ使うもんなので、 人に紫外線が当たってしまってよくないということで、紫外線がまっすぐ行くような板(ルーバーと呼んでいるもの)を設けていましたけれども。部屋の上の方にこういうものをつけて生活してるとどんどん空気の循環が起きるから、部屋の上の部分だけ紫外線照射したら、自動的に空気循環して殺菌されます。これこそ本当にコロンブスの卵というか、言われてみたらそうかもしれないけれども、それを考えてこういう製品化するのってすごい難しくて。

他社さんもこの特許を出す時に他の会社さんの特許って出てくるんですけれども、人が部屋にいない時に、部屋全体を紫外線殺菌するとか、そういうのは結構あるんです。でも部屋に人がいてもずっと殺菌し続けますみたいな、このすごいアイデアの根幹で紫外線のランプとルーバーーと開口部からも照射しますよっていう特許にしたっていうところだと思うんですよね。このルーバーが吸光処理と言って黒く色を塗ってるっていう限定要素みたいなものがついているんですけど、下の方に光が行っちゃったら、人に危険がありますっていうと、黒色では他のメーカー売れませんよってなると、やっぱり競争力出ると思いますので。これを取ってビジネス上どういう効果がありましたか。

木原:その前に1つ、黒いところ…吸光処理っていうところに特許が取れるんだっていうのは、僕はすごく驚いたとこなんですよ。なんか自分たちにとってはそんなの当たり前すぎてそこを特許にすることすら、発想しなかったっていうところがあったんで、こういう気づきというかこういう視点も持たなきゃいけないんだと。まあ、逆に弁理士さんがそういうツッコミをしてくれなきゃ、なかなか僕らからしたら灯台下暗しになっちゃっているとこだなっていう風に思いました。

杉尾氏:この赤い部分除いたこの部分ってのは、別の出願では存在していたみたいなので、 別に競合がいたわけじゃないけど、吸光処理なしで取れるとよかったんですけども、ただ最小限の付加的な要素で取ろうっていう時に、細かいものや大きさがどうだとか、この幅がどうだとかやっていくと、簡単に回避されちゃうわけですけれど、吸光処理というのが世界で知られてなかった。意外と盲点ですけど、吸光処理されてなかったら、乱反射して良くないでしょっていうのはある意味技術なので。

木原:実際に製品作るときも普通に白いやつとかで作ったことあるんですけど、乱反射して制御できなかったんですよね。意匠的にも真っ白のが綺麗かなとか思ったこともあったりしてやってみたんですけど。

杉尾氏:黒と書かずに吸光処理なので、吸光性の白はセーフではあるんですが、ややこしくなっちゃいますけどできるだけ広く取れてると思います。

木原:そういうことも、テクニカルに弁理士さんの方でアドバイスいただけると本当に助かるんですよね。エアロシールドにご質問あった、どんなことがっていうところで言うと、さっき杉尾先生がスライド出していただいいてた「役割」とかっていうところで言うと、業務提携っていうのはすごくあったなと思ってて、地方のベンチャー企業なわけですけど、取引先様、販売店様は、結構東京も多かったんですよね。東京が多くて東証一部上場企業の有名どころのメーカー系の企業とかも弊社の販売店をしていただいていたというのもあります。そういう時に2言目には「知財はどうなってるの?」って聞かれるんですよね。知財を取っていたら、大体どんな知財をとっているかと聞かれるんですけど、番号教えるとかもありますけど、どんな知財を取っているかお話しすると安心していただいて、取引を開始していただく1つの大きな要素になるので、それはすごく大きかったなっていう風には思います。特にこういうメーカーだからこそなのかもしれないんですけれども。

杉尾氏:特許があることによって、いろんな説明を省略できるというか、競合はいませんとか、どっかにいるんじゃないのとか、これだけ調べたのでいませんとか、そんな説明をしなくても特許にあるので、同じものを作るとこありませんみたいな説明でそれだけで済んじゃう。

木原:私たちの説明も省けるんですけど、先方側で社内の決済の時のコミュニケーションでも、実際知財取れてますっていうのは強いのかなって思いますね。あと金融機関さん、銀行さんから融資をお借りしていましたけど、その時も100%聞かれたなっていうのを思い出します。私が冒頭申し上げたような、富士通ゼネラルとの資本業務提携っていう時も、特許っていうところは1番かなり深く議論したポイントだなと思います。そこだけが大きいポイントじゃないんですけど、知財に関して社外と話すっていう意味では、M&Aっていうところは、かなり響いてくるところだろうなって感じました。

杉尾氏:いろんな評価項目、売り上げとか利益率とか従業員どれだけとか、いろんな評価項目、M&Aにしろ、知財っていうのが5つか6つの重要な項目の中の1つぐらいにはなっている。取っていないというだけでも×になります。特許があるってなったら○か△はさておき×がつかないっていうと先に進みます。何か取っていると△になりますし、先ほどのやつも吸光処理をどう説明するかで、白だったら反射してダメですからって言えば○になったりすると、説明も考えてちゃんと有益な技術で押さえておけば他のところがスムーズに進みやすいってことですね。

木原:特許がないと真似されるんじゃっていう議論になると思うので、そういう意味で言うと、知財って1つ大きいんですけど、僕からすると真似されるっていうよりも先ほどの事業説明でもちょっとお話ししましたけど、どうやって安全対策するかとか感染対策のコンサルティングをどうするかっていうところで結局製品も売れていったので、知財があるから売れるというわけではないんですけど、意外とお客様にも知財のことは聞かれるんですよね。なんでそんなに皆さん知財が好きなんだろうとは思うんですけど。

杉尾氏:政策的なものもあるんでしょうね。政策的なところで言うと、どんどん高まってるというか、数ヶ月前からドラマが始まったとかも、知財が主人公になるドラマなんて数年前では存在しませんでした。その前から言うと、特許庁がスタートアップの知財を推し進めるという政策を打ち出しています。なので金融機関の方もそうだし、大企業の方もそうだし、知財のことがそれだけみんな入ってるんで、知財について聞かないと社内で通せないとなってきて重要だとは思うんです。かなり化粧されているぐらい重要さを皆さんが積み増されてるように認識されてるような感じも受けます。

木原:冒頭のとこの杉尾先生の自己紹介のところに戻るんですけど、エアロシールドで知財戦略をお願いしますって言った時も、下町ロケットのくだりっていうのを知っていたので、技術系のベンチャー企業からしたら心強いなと思ったんですけど、どうしても特許って技術側で実際使いづらいハリボテの特許みたいなのってあると思うんですよ。技術寄りとか職人寄りというかですね。でもそうじゃなくて、そこを営業戦略的にもどう特許を取るのかや、どういう特許にしていくかみたいなところというのが、その先の技術で大きく重要になってくるところだと思うので、その辺のポイントについて皆さんにもお伝えできたらなと思うんですけど。


杉尾氏:まずはいい専門家との出会いが1つでしょうね。

技術自体は会社さんが持っているものでそれを文章化するのはまた1つの職人技みたいなところがあるので、そこのセンスだったりとか、どれだけ熱心に研究してるかみたいなところがあるので。あとは、さきほどの吸光処理みたいなところで、すごい細かな話ですけれども、「こんなところは無理でしょ」という感じでやってしまうと特許の範囲がすごく狭くなってしまいます。出願の種類に色々書いてるのは、このルーバーの間隔が違うとか、斜めを向いてるとか、そんなことも書いてあって、ルーバーの向きとか間隔を限定しないと取れませんよというような。それで消極的な方に行ってしまうと、ルーバーの向きにとか、斜めとか、この間隔が違うという点で特許を取ったところで、「売ってる製品だって等間隔でしょ」みたいなことだと、その時特許取っても意味ありませんということだと思うんですね。そこをちゃんと、どうなってるのかとか、今後どうしていくのかとか、こういうところを諦めずにやるとかですね。諦めずにやってると、全部が全部成功するわけじゃなくて本当にダメな時もあるんですけれども、最低限の限定要素でちゃんと製品を守れる特許を取れることもあるので、そこはしっかりと向き合ってくれるような人とディスカッションしながらですね。

それは出会いの運もあるかもしれませんし、あとは経営者の人の感度じゃないですかね。

この内容を理解せずに、「まぁこんなもんだろう」と思ってとりあえず専門家が言ってるからいいやと思って見過ごしていると、ルーバーの向きがものすごく傾いてる特許になってしまうような、それに気づかずに特許を取ってしまうこともよくあるので、やはり経営者の方の感度と知財を自分事として捉えていくかの2つが大切ですね。

木原:ほんとどっちもですよね。弁護士さん、便理士さんのスキルと、諦めないでくれる熱量と経営者側のいつもちゃんと頭の中で考えてどう戦略的に活かすかということと、経営者自体が技術的に深堀りしておくこと。これがディスカッションして重なる時に「あ、これだ」というものが出てきた経験を僕も杉尾先生とのコミュニケーションの中で何度もありましたので、本当に仰っていただいた通り、技術は技術の人に任せるじゃなくて、経営者自身も歯を食いしばってでもちゃんとやった方がいい範疇だなっていうのは、改めて僕も思いますし、皆さんにも個々の重要性をお伝えできたかなと、嬉しく思っております。あと、杉尾先生と今までやってきたことが今日こんな形で公開できて、嬉しいなという気持ちです。

杉尾氏:そうですね、ノウハウ的な経験みたいなものを今後役立てていただきたいところがあります。なかなか大分県で知財をちゃんと活用してEXITまでいかれたっていうのは1つの象徴的なことなのかなと思いますので、ぜひ続いてくれる会社さんが出てきてほしいところですね。

木原:僕もそういうところに関しては応援したいですし、ここは大事だよと口酸っぱく言わなきゃいけないポイントだなと思ったんで、今回こういうオンラインのトークセッションするわけですけど、まず第1のテーマで今回知財戦略を選んだのは、意外と入口の最初の方でこれをやっておかないと、しくじっちゃうよってずっと思っていて。これをなかなか伝える機会がなかったので、今日お伝えできてよかったなっていう風に思います。

杉尾先生、何か言い残したこととかメッセージとかもあれば、最後にいただけるとありがたいです。

杉尾氏:スタートアップの皆さんはすごい熱量でビジネスに取り組まれていると思います。

スタートアップが成功する前提として、そもそも大企業がやっていることと同じことを安くやるとかじゃなくて、新しい製品を作って新しいビジネスをやろうとしてるわけなので、ビジネスモデルとか作ろうとしてる製品が新しい時点で基本的に特許ネタってあるはずだと思うんですよね。

なので、そこでそういった感度を忘れずに、お忙しい中だと思うんですけどどこかのタイミングで取り組んでいくとか、今まで自分がやってない分野で、しかも忙しいとなると後回しになりがちなのは本当によくあることなんですけれども、そこをちょっと一手間かけていただくというところです。

知財が効いてくるのはもっと後だと思うんですよね。2年とか3年経った後だと思うんですけれども、そこでやっぱりやっててよかったなとなると思うんですね。

そういったことをお伝えして、何か動き出すということがあったら私も今日やってよかったなと思います。

木原:ありがとうございます。

時間がオーバーして、本当はもうちょっと話したかったんですけど、また改めてお話できる機会があったら嬉しいと思います。

今日はO-GROWTH-TALKの1回目ということで「イノベーションを考える起業家が知っておくべき攻めと守りの知財戦略」ということで杉尾先生をゲストスピーカーとしてお招きしてお話いただきました。今日は本当にありがとうございました。

––––––– 終わり

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