インタビュー

Oita GROWTH Ventures(おおいたグロースベンチャーズ)R7 採択起業家インタビュー vol.1  安部 雅枝 氏(株式会社 ミトメ舎)

<令和7年度 Oita GROWTH Ventures 採択者>
株式会社 ミトメ舎 代表取締役 安部 雅枝 氏 

こちらは、⼤分県成⻑志向起業家育成⽀援事業「Oita GROWTH Ventures(おおいたグロースベンチャーズ)」の採択起業家5者の事業を始めたきっかけやお人柄、今後の展望をより多くの方に知っていただくことと、実際にアクセラレーションプログラムを開始しての現状や、今後目指していく事業成長についてお話を伺ったインタビュー記事です。

1人目の採択起業家は、株式会社 ミトメ舎 代表取締役 安部 雅枝 氏です。
「廃棄のぼり旗を「美しい織物」へ――障がい者就労施設のアップサイクル事業と全国展開への道のり」

経済産業省×Forbes JAPANのアワードでファイナリストに選出。「福祉」ではなく「布の価値」で勝負する戦略転換

株式会社 ミトメ舎 代表取締役 安部 雅枝 氏

(事業内容)
障がいのある人たちの中に宿るさまざまな個性を「仕事」として社会が「見留める」形に整え繋ぐ

年間20トン廃棄されるのぼり旗を、高付加価値な布製品に再生

 「のぼり旗には街の記憶が詰まっている。廃棄される布だけでなく、記憶も再生させることができる」

 大分市を拠点に障がい者と社会をつなぐ中間支援事業を手掛けるミトメ舎の安部雅枝さんは、廃棄予定ののぼり旗を障がい者就労施設で布製品に再生する「ノボリバタプロジェクト」に取り組んでいる。

 ケーキ屋の店頭から地域の祭り、マラソン大会の沿道まで、のぼり旗はさまざまな場所で活用されている。一方、全国で年間約20トンが廃棄されている。人々の何気ない会話や交流、沿道の歓声といった思い出を、布として残そうという取り組みだ。

 この再生事業は経済産業省とForbes JAPANが主催する「ART BUSINESS AWARD 2025(アートビジネスアワード)」でファイナリストに選出されるなど、製品の品質と事業モデルの両面で高い評価を受けた。

裂き織り(さきおり)の工程――
障がい者就労施設での製品化プロセス

 ノボリバタプロジェクトでは「裂き織り(さきおり)」と呼ばれる手法を採用している。裂き織りとは、古布を細かく裂いて横糸として織り直す東北地方の伝統的な織物技法である。のぼり旗の素材であるポリエステルは薄くて丈夫。家庭用ミシンでも縫えるため、裂き織りとの相性が良い。

 製品化の工程は障がい者就労施設に委託しており、全工程が手作業で行われる。具体的には①使用済みのぼり旗の洗浄・消毒、②布を細かく裂く、③はた織り機での織り上げ――の3段階で進む。委託先の施設利用者は高い集中力で、工程を正確に再現しているという。

「いい事業だね」止まりからの転換――
アワード選出が変えた事業戦略

 安部さんは自閉症の双子の母でもある。元看護師で、子どもの小学校入学後に退職。障がい者アートの作品展やセミナーの企画運営といった中間支援の活動を経て、2020年に障がい者のクラフト作品を販売する事業を個人で起業した。ノボリバタプロジェクトをさらに推進するため、2025年7月にミトメ舎を設立している。

 プロジェクトを広めるため、ピッチイベントへの参加や企業訪問を重ねてきた。聞いた人たちは「いい事業だね」と好意的に受け止めてくれる。だが実際には、企業とのコラボレーションは限定的で、販路の拡大につながらなかった。

 事業を加速させるためのアドバイスを求め、大分県が主催する経営者や起業家の成長支援事業「Oita GROWTH Ventures(おおいたグロースベンチャーズ)」に応募。2週間に1回のメンタリングを通して、自身の潜在的な課題が浮き彫りになった。

 メンターからこう問われた。「あなたは『障がい者を前面に押し出したくない』と言いながら、『障がいがある人が作った作品』と説明するのはなぜか」。

 安部さんは、この事業は「社会的な意味がある」と胸を張れる。ただ、純粋な「布の美しさ」については、「私は素敵だと思うが、人が美しいと思うかは分からない」――確信を持てない本心に気づいた瞬間だった。

 メンターの助言もあり、冒頭の「ART BUSINESS AWARD 2025」のうち、アートやアーティストとの共創を通じて新たな経済価値を生み出した取り組みを表彰する部門に応募した。エンターテイメント大手エイベックスの関連企業や、福祉スタートアップのヘラルボニーといった有名企業が受賞する中、ファイナリストに名を連ねた。審査員から高い評価を得て、「福祉」ではなく「布の価値」で市場に挑む自信につながった。

全国展開を目指す――
ブランド戦略とライセンスモデル

 今後はブランド力を強化し、ノボリバタプロジェクトのライセンスを全国に広げる。「障がい者が製作した」という福祉的な価値の説明ではなく、布としての美しさや、のぼり旗に込められた地域の物語性を前面に打ち出し、ブランド力を高める方針だ。美術館内のショップや高級ホテルのアメニティーなどへの販路拡大を目指す。

 ①廃棄のぼり旗を回収して、②障がい者就労施設で布を織る、というスキームを全国各地に広げる。ライセンスを付与する形で商品の品質を担保する。地域で使われた旗を、地域の障がい者就労施設が布として織り上げる。地元の物語が詰まった製品として、ふるさと納税の返礼品としての登録も視野に入れる。

 以前、大分市内の不動産会社と協力し、コードクリップやランチョンマットにアップサイクルしてアメニティグッズを制作した実績がある。今後は企業との連携も模索する。

医療的ケア児の母親も働ける場所に――
「0.1」のキャリア継続

 ノボリバタプロジェクトにはもう一つのテーマがある。医療的ケア児がいる母親など、フルタイム勤務が難しい人でも働ける場所を作ること。安部さんは双子の子育てを優先するために、看護師としての仕事を断念した経験がある。フルタイム勤務を「1」とするならば、「0.1」でも働きたいと思う人たちの居場所作りを目指す。

「障がい者のいいところから、社会と交われる接点をたくさん作りたい」。

 障がい者やその家族に対して社会が持つ「透明な壁」――違和感を持たれたり、過剰に良く接されたりする状況――を感じてきたという安部さん。障がい者と社会がもっと普通に、自然に交わる場所を増やすこと。ノボリバタプロジェクトの推進は、その接点作りにほかならない。

ミトメ舎公式サイトはこちらから

■多様な事業成長を支援し、新しい経済と社会価値を創る「Oita GROWTH Ventures」
公式サイト:https://oita-growth-ventures.com/

主催:大分県
共同運営:公益財団法人 大分県産業創造機構 おおいたスタートアップセンター
運営:KIHARA Commons 株式会社

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