レポート

「これからのスタートアップどうなっていくか?起業家としてどんな力が求められるか。」-O-GROWTH TALK”Startup GROWTH”- ~書き起こしレポート vol.2~

※この記事は「地域発スタートアップがEXITを目指す!その時に絶対知っておくべきこと 〜「地域発スタートアップ・リアル談義 ―地域で事業を続ける意義・これからの可能性」-O-GROWTH TALK”Startup GROWTH”- ~書き起こしレポート~ vol.2です。

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木原:次に、「これからのスタートアップどうなっていくか。起業家としてどんな力が求められるか」というテーマでどうでしょうか。

下岡氏:昨今は始業環境が厳しいと言われているので一時期よりは資金調達とかが難しくなっていますが、変わらず世の中変わっていかなきゃいけないんで、良い技術を生み出して変えていくっていうのは変わらないだろうし、ある程度スタートアップが何か社会のお墨付きを得ているじゃないですか。市長とか首相始めみんなスタートアップと言っているし。なので始め易い環境にはあるんじゃないかなと思ってますね。

木原:そうですね。以前よりは本当に変わりましたね。私が始めた時、2008年ぐらいだったんですけど、お金もなくて、それこそエクイティの数は地方には殆どなかったし、当時は選択肢がなかったですね。今でこそ僕のやってた感染症対策の重要性は理解されてますけど、当時は「必要そうだけどね~」程度の反応だったので、理解されづらかったなっていうのはありますね。そういう意味で言うと今の方が柔軟だし、寛容な状況になってきてるなと思いますね。

下岡氏:社会的に色んな制度が整っているし、お金も流れてきているので、エコシステムという意味では国としては整いつつあるのかなと思う一方で、最近やっぱり地方の方で感じるのは、エコシステムを作ろうとかその為にアドバイザーをしようとか補助する人は色々増えてるんだけども、プレーヤーが増えてないよねっていうのと、そのプレーヤーの中から抜きん出てく人っていうのも増えてないよねっていうのは課題感に思っているんです。でもそんな状況にも関わらず、サポートする人達とかサポートするプログラムとかお金は増えていっている気がします。ウィンブルドンで優勝するテニスプレーヤーを出そうぜって言って、その施設はめちゃくちゃできるしコーチめちゃくちゃ増えるし、筋トレジムはめちゃくちゃできるんだけど、プレーヤーあんま増えてないですよねっていうのは何か感じますかね。

木原:実はそういうことも感じて、支援側の方を僕もできることならやりたいなと思ってたし、自分が経験したナレッジをちょっとでも伝えたり応援に使えたらなと思って今こうやってやってますけど、確かに支援側の方が多いですよね。

下岡氏:そっちにお金が流れるっているのもあるんでしょうが。

木原: お金が流れるからやるじゃなくて、流れなくても支援する人達が支援する方がいいと思うんですよ。ベンチャーはお金が流れやすい状況になってるのでちょっと緩いなと思う側面もあり、気合い入った感じが伝わらない部分もあるって言うか、一昔前の方が経営者側も気合いが入ってた感じがします。それは時代の流れなのかよく分かんないですけど。

下岡氏:どっちの側面もあるなと思っていて。自分のお金じゃないからこそチャレンジできる部分はやっぱりある。例えば借金数千万、数億追わないと起業できないチャレンジできないってなったらやる人って絶対少ないけども、それを逆に解放し過ぎると、マインドもなくやって駄目でしたっていう、お金が消費されるっていうのは、ちょっと難しい。

木原: 一回きつきつまでなった人が入った方が一番良さそうですけどね。

下岡氏:そういう意味で起業家としてどのような力が求められるかみたいなところで、少し話は変わるんですけど、私は結構会わせてもらう機会が多いんですけど、凄い良い起業家ってみんな学習能力が高い。例えば採用一つにしろ資金調達一つにしろ、初めてのことばっかじゃないですか。それを初めてでも自分で調べたりとか人に聞いたりとか試したりして学習して身に付けていく能力ってのはむちゃくちゃ高いと。で、スタートアップって不確実性の中でどうやって成功を見つけるかっていうゲームだとすると、その不確実性を色々試す中で学習して成功の道を見つける能力なので、そこは凄く起業家に求められる力だなと思いますね。

木原:特に起業家は、立ち上がりも含め、1人で何役もできなきゃ前に進まないじゃないですか。そこってある意味センスもあるのかもしれないけど、努力の部分も相当あるなと思いますね。

下岡氏:木原さんは最初の立ち上げチームってどんな感じだったんですか。
木原:お恥ずかしながら、父に技術的な部分はお願いしてて、それ以外のことは一人でやってたんですよ。最初はやっぱり売り上げがなかなか厳しくて、何か受託できるようなものでもなければ、製品がもうできていてこれをいかに売るかってなった時に、「これはなかなか伝わらないぞ」という状況になりまして。顕在化されてないのでニーズが伝わらないし、全然引っ掛からないような状況だった。そこからとにかく、僕が色んなとこに営業しながら、どういう風にやったら、その必要性を理解していただけるんだろうみたいなことを、自分の立ち回りの反省であったり言葉なのかなど、どういう提案がよいかみたいなところで、行き着いたのが病院だったんです。病院だったら院内感染のコンサルティングみたいなレベルにならないと話を引き出せないと言うか、必要性が理解されないと言うか。製品のスペックとかいいでしょって言っても、「確かに良さそうだけど…」みたいなので終わる。例えば、食品工場とかも、この食品衛生のコンサルティングと言うか、衛生管理のスペシャリストレベルに話せないと話を聞いてもらえないようなところがあって。そこをちょっと深掘りしていく過程で、「あ、だったら必要だね」という返答になっていった感じで、そこまではずっと1人でやってたって感じです。

下岡氏:なるほど。じゃあもう、ある意味全部の領域を分かってるといえば分かってると。

木原:それも分からないとやれなかったんです。僕もどっちかと言うとあんま器用な方じゃないんで苦手なんですけど、色々とやらざるを得ないからやってたっていう感じですね。

下岡氏:それがやっぱ1番力付きますしね。

木原:そうですね。そういう意味で言うと、本当に力が付きました。力が付いたんで、会社を経営していく時に細部にまで多分ぴんと来るような力は付いたなと思いますね。
下岡氏:うんうん。 そういう意味では僕、やっぱり後継ぎの人って結構起業家としてのセンスはあるなと思っていて。やっぱり事業を一回見るじゃないですか。そういう人がスタートアップやるって凄いいいなと思っていて。あ、勿論学生とかでもいいんですけど、1回何か子会社やったことあるとか経営見たことあるみたいな人がそのセンスを持って、さっき言ったスタートアップっぽいものを身に付けると1番いいのかなと思いますね。

ますね。どんな力が求められてるかってのは、ちょっと難しい問いですけど。

木原:これっていうことじゃないにしても、そういうことを絶対やっていかなければいけないし。多分避けて通れないですもんね。だから色んな大変なこと、調整も含め、諦めずにやっていけるのか。あと、その情熱を持ち続けれるのか、みたいなことは凄く重要かなと思うんですけれど。下岡さんはここまで来るのに、外から見たら順風満帆にしか見えないんですけどどうなんですかその辺は実際。

下岡氏:ははは(笑)いやもう、凄いハードなこと色々ありまして。まずさっき言った共同創業したCTOとは会社を分割してますし。2人で創業して株も50パーセント、50パーセント持ってましたっていう状態から、分社化して。プロダクトのSaaS事業と受託事業を分ける形で分割したんですけど、やっぱその時にまだ投資家が入ってなかったら良かったんですけど、人をどう分けるかとか、事業をどう分けるかとか、お金をどう分けるかみたいなところは確かに凄い大変でしたね。そういうものもあるし、事業がなかなか伸びずに人が辞めて行ってしまったりっていうこととかも経験しているし。

木原:それ聞いて聞いてる皆さんも安心してると思いますよ。

下岡氏:そうですよね。順風満帆にいっているスタートアップってないんじゃないかなと思いますけどね。

木原:うん、そうだと思います。今までハードシングスがあった中で、この経営における意思決定の軸と言うか、こだわりと言うようなものは何かありますか。

下岡氏:そうですね、やっぱりミッションやビジョンに帰りますけど、地域産業やレガシー産業のアップデートって言っているのは、僕は娘と息子が小学校行ってるんですけど、パパ友達で集まると大体3人に1人はTOTOか安川電機か新日鐵の人がいるんですよ。しかもちゃんとした親御さんで、塾通わしてたりとかで、結局そうやってる人達が子どもを育てて、この子達がいい大学行ったり、いい教育を受けて社会に貢献するようになっていく訳じゃないですか。そう考えると、やっぱりその地域に強い産業があることって凄く大事だし、それが強い企業であることって凄い大事なんです。北九州から出てる大きい企業っていえば、安川電機とかTOTOとかゼンリンなんですよね。この時代において、同じぐらいのインパクトを出せる企業っていうのをここから作りたいなっていうのはあるので、何かを考える時に小さくまとまらないように、この先にそういう道はあるのかという、インパクトの大きさは結構考えるようにしますね。

あとは、僕一番貴重な資源は時間だと思っていて、木原さんのさっきお金のお話でなるべく投資を受けずにやる方がいいっていう形じゃないですか。僕もそうは思うんですけど、一方で僕達のさっきの受託ビジネスって黒字出せたんで、ある意味少しずつプロダクトに投資していけば開発はできたんですよ。でもそこに掛かる時間って凄い時間掛かって、5年後・10年後を振り返った時に後悔しそうだなって思ったんですよ。なぜならば、やっぱり時間だけはもう巻き戻せないじゃないですか。だから、時間が一番貴重な資源だなと思って、調達できるお金とかそういったものはもうがんがん調達しようみたいなスタンスですかね。

木原:僕も調達しないって決めてた訳でもなくて、それをする適切なタイミングがなかったっていう感じですかね。例えば相手側のこちらに対する理解とかも含めてそういうタイミングがなかったっていうのが一番大きい理由なんですよね。で、結局最終的には僕もM&Aっていう選択なんで、調達ではないですけど、外部のある意味資金ということになりましたけど、今のこの会社にとって一番ベストな選択をすればいいと思って、資金調達もそうだと思うんですよ。今の会社にとって、この目指す方向性に向かったらこうすべきという結論でした。

コロナ禍になって、グローバルな問い合わせが増えていったんですよね。でもこういう設備物なので、現地で設置工事とかメンテナンスも引いていかなければいけないし、安全管理もしていかなければいけないっていうとこで、それを自社でどこか一か国に決めてやるっていうんだったらまだできるかもしれないですけど、何か国もやっていくっていうのはちょっと難しいなというのと、コロナ禍で社会が変わってしまったのでよりスピード感を求められるようになって、その時に資金調達をして、さらにもうちょっと加速させるっていう形ですらもう間に合わないなって思ったんですよ。それが、僕が今回M&Aっていう選択をした一番大きな理由なんですよ。なかなかこういう話も、今までもする機会がなかったんですよ。

下岡氏:それもある意味時間を買っているし、事業成長を一番に考えた場合にそうしたということですよね。それって見方を変えると、創業する時ってそれって全然想定してないですよね。そういう不確実性がありまくる中でも意思決定していかなきゃいけないじゃないですか。逆にそういう意思決定をする時に木原さんが大事にしてることってあるんですか。

木原:自分の欲みたいなことをなるべく無くすっていうことですね。その会社にとってとか、この組織にとってベストな選択って何なんだろう。あとエアロシールドっていう製品とかブランドがちゃんと世の中に浸透していって、残ってほしいっていう気持ちもあったので、その為に自分はどう立ち回ればいいのか、どう立ち回るのがベストなんだろうか。みたいなことばかりずっと考えてたんですよ。それもあったのですぐ選択できる強さもあるかもしれないです。

下岡氏:今のお話聞いて、僕も近い感じはすごく持ってますけど、やっぱりスタートアップに求められるものっていう言い方でもそうなんじゃないかなと思いますけどね。結局スタートアップってお金もブランドも何もない中で、人とかお金が集まる理由って、社会をどうしたいかとかその人が魅力的かとかそういうことでしかないから、儲けたいとか自分が金持ちになりたいっていうものには多分付いてこないから、一番大事なのは何かって、やっぱりそういうところなのかもしれないですね。

木原:本当にそうだと思うんで、何か始められたりしてる方達にはその辺の価値観みたいなところはお伝えできたらいいなっていう風に思ってますね。話してたら時間が押しちゃったんですけど、最後のテーマで、他県から見た大分の魅力、もしくはポテンシャルについて感じることがあれば教えてください。

下岡氏:そうですね、別府とか湯布院は凄い有名だし、皆さん知ってると思うんですけど、僕はお爺ちゃんの別邸みたいなものが国東半島にあってそこに毎年行ってたんですよ。で、国東って結構面白いなと思ってて。仏像とか自然とかあって、観光や遊びに行くのに面白いっていうイメージが凄くあります。でも逆に、産業っていう意味では、正直あんまりイメージがないと言うか、宮崎みたいに地産とかでもなければ、北九州みたいに製造業っていう感じでもないし。だから産業という意味ではイメージがないっていうのが正直なところですね。でも一番の魅力は、北九州から見ると、行き易くて近い。温泉街とか遊ぶところっていうイメージですかね。

木原:本当にその通りです。週末は温泉に入りに行って一気にリフレッシュできるんで、こんなポテンシャルあるとこないなっていう風に思ってて。11月にデンマークに行ったんですけど、デンマークって日照時間が少なくて寒いので、精神的に厳しいなって思っちゃったんですけど、ディスってる訳じゃないんですけどね。でも、やっぱそういう意味で大分は凄く恵まれてて、恵まれてる環境にいたなっていう風には思いますね。

下岡氏:僕サウナ好きなんで、最近大分にサウナ増えてるなって思ってます。

木原:そうそう、大分の自治体で唯一温泉が出ない自治体(豊後大野市)があって、そこはサウナが盛んになってます。最後に、話しきれなかったことも含め、下岡さんからメッセージがあればお願いします。

下岡氏:今日のテーマは、地方のスタートアップについてのリアル対談ということで、僕が最近凄く思っていることがあって。これから地方は面白いなと。何が面白いかって言うと、スタートアップって言うと、いわゆるFacebookを始め、日本で言うとスマートHRとかサイバーエージェントとかそういうイメージをしがちですけど、それだけじゃないなと思っていて。地方のスタートアップと言うと後継ぎなんかとの距離も近いし、もっと言うと行政とか大学とかも距離が近いと思うんですよ。だから、いわゆるその業界を跨いだ中での交流とか人材の行きとか、そういうものがあるからこそ成り立つビジネスとかスタートアップの事業の種とか結構あるんじゃないかと思っていて。そういうところをフルレバレッジしていく方が東京ともシリコンバレーとも違う戦い方ができる。フィンテックでとかブロックチェーンでとかってシリコンバレーですればいいじゃないですか。でも例えば温泉の地熱を使って何かしたり、それを商業的にPoCするとかって地政学的なメリットを生かしていると思うんで、そういうのが地方のスタートアップの勝ち筋なんじゃないかと思います。

木原:ありがとうございます。今日思ったことですが、下岡さんは実家の家業の課題がすごくヒントになってるじゃないですか。それくらい課題とかチャンスってめちゃくちゃ転がってるんだよと。それをいかに見つけられるかや自分事に出来るかっていう、能力や意識の問題かもしれないですけど、そういうところを注目してもらえたら、これからいろいろ見つかるんじゃないかなって思います。

下岡氏:確かに。スタートアップって正に課題を見つける旅なので、見えないところなんだけど実は近くに課題があるのが地方なのかもしれないですね。

木原:そうですね。では時間が来てしまいましたので後ほどまた個別にお話を伺いたいと思います。

今日はクアンドの下岡さんを招いてお話を聞いてみました。下岡さん、今日はありがとうございました。

––––––– 終わり

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