レポート

「イノベーションを考える起業家が知っておくべき攻めと守りの知財戦略」-O-GROWTH TALK”Innovation GROWTH”- ~書き起こしレポート vol.1~

木原寿彦(以下、木原): O-GROWTH-TALK始めます。皆さんこんにちは。私たちは今Oita GROWTH Venturesという大分県のアクセラレーションプログラムを運営しているんですけれども、O-GROWTH-TALKという企画で、今日は「イノベーションを考える起業家が知っておくべき攻めと守りの戦略」について杉尾先生と一緒に深めていきたいと思います。

大分の高校を卒業して大学に行き、2008年からエアロシールドという紫外線照射装置のメーカーを経営していまして、2021年に富士通ゼネラルという会社と戦略的資本業務提携を実施しまして、今私はエアロシールド株式会社では相談役となっております。

KIHARA Commonsは私個人としても会社としても、ベンチャー企業の直接投資や、ベンチャーキャピタルへのLP出資、あとは起業家育成、ベンチャー支援、社会起業家支援などをやっております。今年度は、大分県成長育成志向支援事業「Oita GROWTH Ventures」を運営しております。

そして今回初めて、O-GROWTH-TALKというものをするんですけども、3つのGROWTH(Startup GROWTH・Social GROWTH・Inovation GROWTH)に合わせて、起業家、専門家、投資家、支援者など様々なゲストをお招きし、事業成長を考える起業家や経営者の方々に役立つ知識や情報などを対談形式で発信いたします。

今日は第1回ということでゲストスピーカーとして、杉尾先生にお願いしております。
杉尾先生は、私がエアロシールド時代ずっと、知財について、特に知財周りや技術周りの戦略のところを伴走していただいていた先生です。
さっそく杉尾先生にバトンタッチしたいと思います。杉尾先生よろしくお願いします。

杉尾氏:よろしくお願いします。私は内田・鮫島法律事務所という所で弁護士と弁理士の仕事をしていまして、エアロシード株式会社を内田・鮫島法律事務所で顧問をさせて頂いたという経緯があります。

下町ロケットというドラマでバルブメーカーの佃製作所がが帝国重工という巨大メーカーと特許を使って戦う場面で、佃製作所側に神谷弁護士という弁護士が就くという場面があったと思いますが、このような場面で、技術に強い中小企業が知的財産で大企業と戦っていくというのが私がいる事務所のコンセプトとなっていまして、中小企業とかスタートアップといった規模ではなかなか大企業には勝てないところにでも、技術があって知的財産を保護すると大企業と戦っていける法務や知財面で支援をしている事務所になります。

こういった技術をちゃんと保護しようとすると技術がわからないといけないとか、ちゃんと特許のことをわからないといけないということで、弊所の多くの弁護士や私は、元々理科系の大学・大学院を出てそれで弁理士として特許の仕事をして、そこから弁護士になりました。
そういう者が集まっている事務所でこういったサービスをさせて頂いているということになります。

今日は、この「イノベーションを考える起業家が知っておくべき攻めと守りの知財戦略」ということで、基本的には皆さんの商品・サービスをどう特許で保護していくのかというところをお話ししていこうかと思うんですけども、知財という広い枠から話をしていこうかなと思います。

それで今日の流れとしては、前半私の方から知的財産の基礎として3つのお話をさせて頂いて、この3つのお話を元に木原さんのエアロシールドの時にどうだったかっていうような、かなり具体的なお話ですとか、あとは木原さんと、知的財産はどうやって使えるのかというような話を、後半でしていこうかなと思っています。

本日お話したい3つの知的財産の基礎としては、第1に、知的財産とは、主に特許とは、といっても実際出願したことがあるという方でないとイメージがわかない部分があるんじゃないのかなと思いますので、最初にそのイメージを持って頂くところと、第2に、そのイメージを元に、こういった知的財産を主に特許というものをどうやってスタートアップでは使っていくのか、どういう風に使われているのかみたいなところをお話しさせていただいて、そして第3にこういう知財を取っていこうとか保護していこうとすると、いつから始めないといけないのか、時間はどれくらいかかるとか、お金はどれくらいかかるのかみたいなところをお話ししようかなと思っております。

テーマ1:知的財産とは?

まず一つ目なんですけれども、知的財産とはというとことですね。知的財産というと結構広くて、知的財産という言葉を知っている方でもこんなにも種類があるの?というイメージかもしれません。この特許とか商標とか聞いたことがあると思うんですけども、他はあまり聞いたことがないかもしれません。

最近かっぱ寿司の社長が逮捕されたみたいな、元々いた「はま寿司」という会社の色んな原価の仕入れ情報を持ち出したという事件がありましたよね。原価の情報などは営業秘密とかで保護されていますけども、こういったものも知的財産の一部なんですね。こういった知的財産が色々ある中で、営業秘密とか別に特許庁に何か特許出願をするとか手続きもいらなくて、著作権とかも色々とソフトウェアのソースコードに著作権が発生して誰も真似できないみたいになるんですけども、特許庁の手続が不要なのですが、資料の青くなっている特許とか、実用新案、意匠、商標など、これは特許庁にわざわざ出願しないといけないので、出願を忘れていると後から保護されませんという所で、保護の仕方が他と比べると難しいところがあります。今日は、この中でも特に特許について焦点を当ててお話していこうかなと思います。

木原:この表も大事ですね。そもそもなかなかここを理解されていない経営者も多くいらっしゃる気がするので、意外とこの入り口って急に特許とか商標みたいな話になっちゃいがちなので、すごく整理されて良いなと思いました。

杉尾氏:そうですね。実用新案って特許とほとんど一緒なんですけど、意匠ってデザインを保護してくれて、物だったらそれこそスマートフォンのデザインもそうだし、あとはプロダクトのデザインだけでなくてスマートフォンに映る画面もデザインなので、画面意匠という保護されるとか商品の形態が保護されるそういったところを忘れないように出願をしないといけなかったりとかがありますね。

商標もやっぱり会社の法人名とか設立を急ぐあまりに特に何も考えずに設立登記して、登記した後に設立商標って他の会社が取っていたので設立してから法人名をまたすぐ変更しないといけないとかあったりするので、最初のところで躓くと後々面倒になります。

法人名は後から変更したらいいでしょって話かもしれませんけど、そこでややこしかったりしますので、この辺の入り口は知っていて損はないかなと思います。

次にいきまして、特許のイメージとして一番私がわかりやすい例として、Amazonのアプリで商品を購入するときに何か一つ商品を選んでカートに入れてから購入するという仕方と、「今すぐ購入する」というボタンを押す購入の仕方がありますが、今すぐ購入する仕方というのはAmazonのワンクリック特許といって1997年、今から25年くらい前に、Amazonが創業してから3年目くらいの時期に出願をした特許でして、これがAmazonのサービスを広げるのに役立ったと言われているんですね。

これどういう特許かというと、先ほど申し上げた通り今すぐ購入というボタンを押したらそれだけで買えちゃうという機能なんですけども、何か今すぐ購入というボタンを押したら商品を買えるだけでは技術だけに整理がされていないので、特許として技術的に整理していくと、

これ実際の米国の特許を日本語翻訳したものでちょっと小難しいことが書いてあるんですけれども、特許って技術の内容を全部文書に整理して特許に出願して、「これだったら世界で一番新しいですね」といって認められて文書化されているんですね。まずアイテムを注文するリクエストを送りますと、今すぐ購入を押したらリクエストがスマートフォンからAmazonのサーバーに飛んでいくわけですね。そうするとAmazonのサーバーの方でこのリクエストに購入者の為に事前に保存している追加情報(住所・クレジットカード)をサーバーの方で回収して、この商品を購入したいと注文と合わせて一つのリクエストとして生成します。それだけでアイテムの購入が完了します。それでショッピングカートみたいなものは使いませんという特許になっている。
Amazonも最初は本だけを販売するときに本を如何に早く、ユーザーが楽に買えるようにするためにどうしたらよいかと考え抜いた結果、こういう購入の仕方を思いついたということになります。皆さん何かしら商品であったりサービスであったり、開発していく中でやっぱり工夫というものは生じてくるはずです。その工夫というものはウェブサービスなんかだとサーバーにおける何かしらの処理に特徴があるので、こうなったら便利な機能っていうものが実装されるわけですので、そういったものを整理していくと、またはそれが世界で一番新しいものでないと特許が認められないので、そういうハードルがあるんですけども、それが新しければ特許として認められることになります。それが25年くらい前だとこういうアイデアを考えた人はいなかったので特許が取得できますが、特許は20年で期間が切れてしまいますので、今から3~4年前にこの特許は満了しています。しかし、それまでの間Amazonはワンクリックで買える機能とずっと独占することができたので、楽天なんかも今実装しているかわからないですけどもこういう特許のせいでずっと今すぐ購入するというボタンは実装できなかったと言われています。
私なんかもちょっと高くてもいいので早く買い物終わらせたいというタイプなので、1回でもタップ数が少ないアプリで購入したいなと思います。そのため、amazonのアプリを使うようになってしまっていて、そこに依存してしまってるということで、ユーザーの依存性を高めるためにはいい機能と言えると思います。

木原:先生、意外とこの技術系の会社さんとかでも、自分たちのその工夫が特許になるってそんなに思ってらっしゃらないところとかあると思うんですね。

で、せっかく自分たちで没頭して工夫してやったことが真似されるってことは、まああると思うんですけど、同時に「もしかしたら、これ特許になるかも」って気をつけておくというか、気にしておく点について、僕もこういう技術系のことやっていて、いつもそれを頭の横に置いてたんですけど、その辺どう思われますか。事例も含めていかがでしょうか。

杉尾氏:そうですね、ちょっとまたエアロシールドの話は最後色々具体的にしようかなと思ってるんですけど、木原さんって本当に一緒にお仕事をさせていた中で、すごい知財の感度が高い社長さんだった感じがしています。

私も、クライアントの皆さんっていうのは本当に知財を保護したいとか、特許でちゃんと商品・サービスを守りたいと言って、ご相談に来られる方がほとんどなので、知財の感度が高い方の相談が多いと思います。ただ、全員が、早い段階から相談にお越しになられるというわけではありません。

例えばシード期とか、本当に必要なのは、シードの資金調達をすると同時に、そこである程度数千万とかできるわけなので、そうなったら、すぐ出願しないといけないとか、シードの資金調達をする前でも特許を出願しますって、50万とかするぐらいの話なので、早い段階でしないといけないっていうところで言うと結構早い段階から経営者の方がそういう感度アンテナを持ってないと、特許出願するというタイミングを見失いもう取れなくなってしまうので。

やっぱり結構ご相談に来られる方というのは、ちょっと遅れてくる方の方が多いんですね。

遅れてくると「あ、これ出そうと思ったら出せたのにもう出せないね」みたいなとこで結構選択肢が狭くなってしまうので、こういったアクセラレーションプログラム、今回のこういったOita GROWTH Venturesさんのされているこのプロジェクトも、こういったところに参加される皆さんっていうのは、アンテナの感度が良かったり、かなりまだシード期とかステージが早いと思います。こういった早い段階で知財の話と出会えるかどうかって、もう完全に1つのきっかけとか出会いみたいなもんなので、今回せっかく情報を知っていただいたわけですから、「あ、自分の会社にも関係あることだな」と思って頭の片隅に残し置いていただいて「あ、これもしかしたら自社オリジナルかもしれないな」と思ったら、近くの相談できる方に相談してみるとかっていうことは考えてみた方がいいのかなと思います。

先ほどのワンクリックの特許、これはまあAmazonであまりにも大きすぎる話という風にも見えるかもしれないんです。一方、すいませんが大分県の事例が見つからず、佐賀県さんの事例を紹介したいと思います。 多分大分県を含む九州地方ってやっぱり食べ物美味しいので、農業系のDXを考えてるスタートアップさんとか、むしろ本州とかと比べると多いんじゃないかなっていう風に思うんですけれども、そういう事例になります。

OPTIM(オプティム)という東京のIT系の会社が佐賀県と佐賀大学が農業のDXみたいなところで連携するという時に、OPTIMが取得した特許の例なんですが、これの課題感としてはやっぱり農業ってある程度そのノウハウがないとうまくはできないですねと。

とはいえ、やっぱり若い人にも農業に携わってほしいとなると、そういう若い経験が浅い人でもうまくどう農業ができるようにっていうところを支援するようなサービスっていうのが必要じゃないかっていうところで、これ、スマートグラスをかけてるんですけど、スマートグラスをこうやってかけて、それで農作物とかトマトとか、そういったものを見ると、農作物が画面に映った隣に収穫時期3日後とかって収穫時期が表示される。これで、適切な時期に収穫ができるっていう特許なんですね。

これは、どうやってやっているのかというと、ウェアラブルグラスにカメラがついているので、それで農作物の写真を撮ると、その写真から農作物の色とかサイズ、トマトだったら赤みがどのぐらい赤いのかとか、緑がどれぐらいあるのかとか、サイズはどれだけ大きくなってなど。この色とかサイズが分かると、そこから収穫時期が予測できちゃいます。

確かにトマトでも標準的な色とか標準的なサイズっていうものがこれぐらいだっていう閾値みたいなものを設けておくと、それを超えたら収穫時期ですねとか、それに到達するのはあと何日ですねってのを予測することは比較的容易なのかなと思いますけれども、こういう特許が成立しています。こういうアイデアっていうのは、新しいサービスとかを開発する際にこういった機能的な売りがないとサービスも実装できないと思いますので、こういうアイデアを思いついて、色とサイズで収穫時期予測できるんじゃないの?っていうことさえアイデアとして整理ができれば、別にソースコードがあって、実際の色とサイズで収穫時期が予測できるっていうものがなくても、アイデアだけで出願できちゃうんですね。本当に早い段階で結構出願ができてしまいますが、その反面、自社でこの製品をリリースしてしまうとそれだけで逆に出願ができなくなってしまったりもするので、このアイデアを考えた段階で特許のことを考えることも、1つポイントとしてお話ししたいなと思っています。

木原:今のすごくポイントだと思うんですけど、 これ結構アイデアレベルだと思うんですよ。それで、そのウェアラブルのそのシステム側のことまで入れなくても特許になるっていうのは ある意味ハードルが低いというか。

杉尾氏:そうですね、本当にシステム側では色とサイズで画像解析して、色とサイズを判定して、それで収穫時期を予測するという、サーバーではそういう処理をすると思うんですけど、これを実際コードで書いたりとか、それがバグなく処理できるようにしようとすると、すごく大変なことだと思います。特許で必要となる情報はアルゴリズムよりも抽象的ですよね。

木原:ありがとうございます。ライブの方に視聴者の方からもコメントいただいたんですけど、「当たり前のアイデアだと特許は関係ないと思いがちですが、当たり前のアイデアが特許になると莫大な収益に繋がりそうですね」っていうコメントを今いただいたんですけど。

杉尾氏:そうですね、本当に当たり前っていうか、もうすでに誰かが売ってしまってるとか、インターネットに書いてあるみたいなものだとダメなんですけれども、Amazonも25年前にこれを考えた時はやっぱりこう、今となっては当たり前のものでもその時は当たり前じゃなかったということですね。6~7年前ぐらいの時だと思うんですけれども、なんか今となって結構コロンブスの卵みたいなものでですね。言われてみたらこういう判定できそうだなって言っても、最初それを整理するっていうのは意外と当たり前みたいなことを、ちゃんと整理するのが新しかったりするんで、そういうところで取れるとすごくいいですよね。複雑な大学で研究しないといけない技術よりも、顧客課題を解決できる簡易な技術の方が莫大な収益になる可能性があると思います。

木原:ある意味広く取れるってことですもんね。それを文章にするっていうのが難しいですよね。

杉尾氏:ハードルを高く考えてほしくないなって思うのは、文章にするのは弁理士さんの仕事なんですよね。弁理士さんもスタートアップの案件とかに慣れた人だと、色々質問をしてそこから聞き取ってこういうふうに全部整理してくれるみたいな感じなので、スタートアップの方は、事前にはあんまり整理できてなくても、打ち合わせで色々話してるうちに「あ、整理できた」みたいなことが非常に多くてですね。なので、スタートアップの方が、文章化するとこまで全然いかなくていいと思います。

木原:僕もそうでしたしね。喋りながら思いついたこともありますしね。

杉尾氏:壁打ちみたいな形で、専門家が関与して特許は一緒に考えていくみたいな形なので。あまり固まってなくても、もうちょっと漠っとした状態で弁理士さんに相談していただいてもいいかなと思います。

––––––– vol.1 終わり

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