Oita GROWTH Ventures(おおいたグロースベンチャーズ)R7 採択起業家インタビュー vol.4 森 達雄 氏(FOREST SEMINAR)
<令和7年度 Oita GROWTH Ventures 採択者>
FOREST SEMINAR 代表 森 達雄 氏
こちらは、⼤分県成⻑志向起業家育成⽀援事業「Oita GROWTH Ventures(おおいたグロースベンチャーズ)」の採択起業家5者の事業を始めたきっかけやお人柄、今後の展望をより多くの方に知っていただくことと、実際にアクセラレーションプログラムを開始しての現状や、今後目指していく事業成長についてお話を伺ったインタビュー記事です。
4人目の採択起業家は、FOREST SEMINAR 代表 森 達雄 氏です。
「【特許技術】大分発、常識を覆す「曲がった杖」——元教諭が挑む歩行杖の世界標準化」

FOREST SEMINAR 代表 森 達雄 氏
(事業内容)
『1足長の法則』を世の中に広めることによって、世界中の人々の生活の質を高め、健康寿命延伸に貢献する
杖を曲げたら、最高に歩きやすかった——。元中学教諭の森達雄さんが登山中に偶然出会った木の枝から着想を得て、開発した歩行杖「Issoku-CHO(1足長)」。特許と意匠登録を済ませ、クラウドファンディングでも好評を博している。グッドデザイン賞や大分県知事賞の受賞を経て、台湾での販売も決定。2026年2月には普及・販売を担う法人「MORI FAM(モリファム)」を設立し、世界標準化に向けて本格始動した。
登山中の偶然の発見と、25cmの曲がりがもたらす効能
2021年10月、大分県にある由布岳で森さんと妻が登山中、落ちていた曲がった木の枝を手にしたことが始まりだった。曲がった枝を杖代わりにすると、驚くほど登りやすい。自宅に持ち帰り、なぜ使いやすいのか調べ始めた。
市販のトレッキングポールを購入して曲げ具合を丹念に検証した結果、杖が前方に曲がっていることで3つの機能的な優位性があると分かった。第一に、安定した歩き出しが可能になる。第二に、腕や肩を大きく動かさずに済むため疲れにくい。第三に、杖のしなりが前方への推進力を生む。持ち手から先端までの水平距離が25cm、およそ一足分前に接地している状態が最も歩きやすいと突き止め、この歩行補助杖をIssoku-CHOと名付けた。
「この杖を製品化すれば、山の中を走り抜けるトレイルランからお年寄りの外出支援まで、幅広く価値を提供できるのではないか」。商社に勤める弟に相談すると特許取得を勧められ、資料作成を開始。2022年6月、特許査定に一発で合格した。

製造体制の構築と市場の反応
特許を取得後、スポーツメーカーなど10社以上に製品化の相談を持ちかけた。しかし森さん自身に杖の製造などの実績がなく、良い返事は得られなかった。転機となったのは、長野県でスキーやトレッキングのポールを製造する企業の存在を知ったこと。問い合わせると、受託製造(OEM)に応じてもらえることになった。
製造資金を調達するため、2022年12月から翌年1月末にかけてクラウドファンディングを実施。全国143人から176万円が集まった。初号機の製造に向けて委託企業と入念に打ち合わせを重ねる中、担当者から「安全性を担保したい」という提案があり、一般社団法人製品安全協会が認証する「SGマーク」を取得。安全基準・製品認証・事故賠償が一体となった品質保証を備えた上で、6月に購入者全員へレビュー用のハガキと共に発送した。
受け取った購入者からは好意的な意見がほとんどだった。唯一、京都府在住の男性だけが「使いづらい」という声を寄せたため、現地に行って詳しく話を聞いた。男性は小柄な体格のため、Issoku-CHOが長すぎたという。S・M・Lなどの複数サイズ展開を考えるきっかけとなった。
グッドデザイン賞受賞、メディア露出、そして海外進出へ
Issoku-CHOは第三者機関からの評価を着実に積み重ねてきた。2023年に九州地方発明表彰の「大分県発明協会会長賞」、2024年にグッドデザイン賞、2025年には大分県主催のビジネスコンテストで最高賞にあたる「大分県知事賞」をそれぞれ受賞。地元や全国の新聞・テレビにも取り上げられ、認知が広がりつつある。
登山プラットフォームを運営するヤマップ(福岡市)がIssoku-CHOに興味を示し、カーボン素材を使用した軽量モデルの共同開発が進行中だ。トレイルランやトレッキング向けの需要を見込んでいる。2025年には2度目のクラウドファンディングを実施。両手に持つタイプのIssoku-CHOで、145人から220万円の資金を得た。試作品も含め、累計出荷本数は1000本を超えた。現在はホームページから直接購入が可能で、1本の価格は税込11,000円から。

大分県の成長支援事業を経て法人化
メディア露出が増え、企業からの問い合わせが増加する一方、森さんは個人事業主として活動してきたため、「法人になってから改めて」と商談を先送りされるケースが目立ち始めた。法人登記を検討していた折に、大分県主催の起業家・経営者向け支援事業「Oita GROWTH Ventures(おおいたグロースベンチャーズ)」の存在を知り、応募した。
当初のメンターとのやりとりは、森さんを困惑させた。以前、家族の事業を清算した経験から「法の下に人を作る」ことは一大事業と捉えていた。一方、ビジネス経験豊富なメンターからは「専門家を介さずに自分で法人登記をした」といった声が聞かれた。中学教諭や塾講師として子どもたちに向き合ってきたキャリアとは全く異なる世界。メンターのアドバイスは新鮮な学びとなった。
約半年間のメンタリングを通じて、「Issoku-CHO事業に対する自分自身の考えが深まった」と語る。メンタリングを通して明確になったポイントのひとつが、法人の出口設計だ。「特許が切れる約15年後までにIssoku-CHOが社会で当たり前の存在になり、モリファムは法人としての役目を終える」。特許の有効期間に法人の寿命を重ね、期限を区切って普及に全力を注ぐという考え方だ。
Issoku-CHOを世界のスタンダードに
「Issoku-CHOを世界のスタンダードにする」と森さんは意気込んでいる。台湾での販売が決定し、海外展開の第一歩を踏み出した。国外では特許を申請せず、各国の事業者が「25cm曲がった杖」を自由に製造できる環境を望んでいる。
一方で、日本国内では特許が約15年残っている。「国内でシェア1%を取るだけでも約100万本を売る必要があり、一人では到底広められない」。ヤマップとの連携に加え、歩行リハビリの現場など医療分野での活用拡大を目指し、協力者を増やしたい考え。
終わりの時期を決めて法人化する際、「会社を閉じる時期を明言する必要はないのでは」という指摘が周囲の人からあった。ただ、責任を持って最後まで育て抜く覚悟を、終了時期の明示という形で示したと伝えると、周囲の人たちも納得してくれたという。特許の有効期間中、Issoku-CHOの世界標準化に向けて走り抜く構えだ。


■多様な事業成長を支援し、新しい経済と社会価値を創る「Oita GROWTH Ventures」
公式サイト:https://oita-growth-ventures.com/
主催:大分県
共同運営:公益財団法人 大分県産業創造機構 おおいたスタートアップセンター
運営:KIHARA Commons 株式会社