Oita GROWTH Ventures(おおいたグロースベンチャーズ)採択起業家インタビューvol.1 原 彩乃氏 (株式会社なかつ空き家管理サポート)
<令和6年度 Oita GROWTH Ventures 採択者>
株式会社なかつ空き家管理サポート 代表取締役 原彩乃氏
こちらは、⼤分県成⻑志向起業家育成⽀援事業「Oita GROWTH Ventures(おおいたグロースベンチャーズ)」の採択起業家5者の事業を始めたきっかけやお人柄、今後の展望をより多くの方に知っていただくことと、実際にアクセラレーションプログラムを開始しての現状や、今後目指していく事業成長についてお話を伺ったインタビュー記事です。
1人目の採択起業家は、株式会社なかつ空き家管理サポート 代表取締役 原彩乃氏です。
「自分自身と向き合った貴重な時間人と心を繋ぐ企業を目指して…」

株式会社なかつ空き家管理サポート 代表取締役 原彩乃氏
(事業内容)
大分県中津市を拠点に、空き家管理や生前整理、遺品整理を行う。
業務を通じ、地域課題の解決に貢献でき、地元密着型の包括的支援ができる企業を目指す。
約60年続く家業を後継し、新たに「家じまい」を支援する事業を展開
東京で会社員として勤めていた原さんは、約60年続く家業を継ぐため、今から3年前に地元の中津へ戻ってきた。昭和41年に創業し、今日まで一般廃棄物処理業者として邁進してきた会社を引き継ぐことになり、当時は戸惑いもあった。「2代目社長の祖母が高齢になり、以前から手伝って欲しいと言われていたのですが、東京での仕事も諦めきれず、当時妊娠もしていたので先送りになっていたんです。でもいよいよ祖母の体調が悪くなり、こちらへ戻ってくることに…。自分が社長になるなんて思ってもみませんでした」。
これまでの仕事とは畑違いの家業を34歳で引き継ぎ、代表取締役に。業務内容の詳細さえも把握できていなかったため、右も左も分からぬまま、現場に足を運び自ら体を動かしながら仕事を覚えていった。「3年経ちましたが、まだまだ勉強しないといけないことが山積みです」。
長年、廃棄物処理事業を生業としてきたが、今後の新たな事業展開として「家じまい」を支援するために、空き家管理の会社を立ち上げた。「地域の生活インフラを支える事業者として、お客様との交流を続ける中で、”空き家”への悩みを抱える様々な方に出会いました。これまで先代から培ってきた地域とのつながりを活かすことで、空き家問題解決の糸口を見出すことができるのではないかと思い、新会社を立ち上げました。
でも、実際に始めてみたら、顧客や基盤を作る上でなかなか手応えを感じることができず、本当にこの方向でいいの?と迷い始めました。方向性の答え合わせも含め、認知度や需要を広げるためにも支援いただきたいと思い、今回応募させていただきました」。
現在「株式会社なかつ空き家管理サポート」では、空き家管理以外に、生前整理・遺品整理の業務も行なっている。「空き家問題の中には、遺品整理なども含まれてきます。片付けの依頼を受け、信頼していただけると解体もお願いしたいと、その後の繋がりも生まれます。廃棄物処理事業を大きな柱として、プラス要素でこの事業を軌道に乗せられたらと、社員と無理のない範囲で月に4件ぐらいの依頼を受けています。この1年間で約50件ほどの仕事を引き受けました」。

「本当にやりたいことはなに?」自分の核心に触れた時間
様々な思いを抱えOita GROWTH Venturesに応募。無事に採択起業家として選ばれ、参加することになった。プログラムでは、メンターによる徹底した個別のメンタリングが数回行われ、昨年の12月には中間報告会が開催された。そこで、涙ながらに発表する原さんの姿を拝見した。家業を継ぐ重責に押しつぶされそうになりながらも踏ん張ろうとする強い意志が伝わってきて、私も涙しながら原さんのピッチを見守った。
「正直なところ、この事業に参加すれば知名度が上がるのかな?なんて安易に考えていた部分があります。でも『原さんが本当にやりたことはなんなの?』と、メンタリングの際に毎回問われ、その答えが見つからなくて泣きながら話したことも何度もあります。否が応でも自分の本音と向き合わないといけなかったのが、結構しんどかったです…。だけどもし参加してなかったら、事業の意味を見失ったままだったと思うので、自分の核心に触れることができた貴重な時間だったと感じます」。
以降、仕事や顧客に対する意識にも変化があった、と原さん。私たちのサービスは、ただ単に物を片付けるだけではなく、心の整理にもつながる大切なプロセスになるということを再認識し、仕事の意義を考えるきっかけにもなったと話してくれた。
私の軸になっているのは「人」陰ながら支える存在でありたい
「これから会社をどう導いていこう」と悩んでいた原さんは、昨年、後継者支援や女性起業支援のいくつかのプログラムにも参加した。「今回、Oita GROWTH Ventures支援に参加してみて違いを感じたのは、本音でぶつからないといけないというところ。ごまかしが効かないんです。だから本当の自分を見つめ直す時間にもなった。いくつか参加した支援事業では、自分の好きなことをやりたい!という方が多く、私とは状況が違っていました。私は、自分の感情を優先するより20名の社員を守ること、事業を止めないということに責任を感じていました。だから、なんで自分の気持ちを優先しないといけないの?と、問われるたびに思っていましたが、向き合う時間の中で、目の前の人が幸せかどうかというのが私の軸になっていて、やっぱり『人』なんだなって改めて気付かされました。前職は製薬会社でMR(医療情報担当者)をしていたんですが、それも患者さんやお医者さんという人が起点になってますし、今の仕事も陰ながら社会を支えるような仕事なので、目立たないけど人を支えることができて、地域のお客様が喜んでくれている姿を間近で見れるのがやりがいなんだという想いに気づけたんです」。
ある案件で生前整理の依頼があった。死期が近いシェアハウスの同居人の生前整理をお願いしたいという依頼だった。「依頼した方もきっと辛かったはず。その方の心情にも寄り添いながら丁寧に作業を進めました。作業を終えた3日後、同居人の方が亡くなったと連絡がありましたが、その際、自分の人生を見直すきっかけにもなった。ありがとうと感謝の気持ちを伝えてもらったんです。遺品整理や生前整理というと悲しいイメージがあるかもしれませんが、実際は、私たちが携わることで大切な記憶がお客様に刻まれていく作業だと感じています。仕事を通じ自分も成長させてもらえているので、目の前のお客様に対してのサービス一つ一つを、大事にしていきたいと、改めて感じることができました」。
見積もりの時から、家主さんの人生のストーリーや依頼主の想い、困りごとなどをヒアリングし、丁寧な対応を心がけてきた。お客様に寄り添い、事前準備を徹底する細やかな気遣いが身を結んだ出来事だった。

環境事業に携わるからこそ伝えられること
原さんが今回の支援事業に参加したことを、誰よりも喜んでくれているのは社員の皆さんだと教えてくれた。「今回参加して、自分の一番の変化は、少し本音で話せるようになったなということ。プレッシャーや不安が強かったけど、自分が心を開かないと相手も本気で向き合ってくれないということがわかった。私も変わったんですけど、社員の皆さんが変わったとすごく感じます。私がもがいている姿を見て『社長のためにもっと会社を良くしたい』と思ってくれている気持ちがすごく伝わってくるし、そんな社員の皆さんを本当に大切にしたいという気持ちが一層深まりました。社員一人ひとりが持つ個性や才能を大事にして、それが活かせる会社を目指していきたいです」。
〝あなたは本当は何がしたい?〟。…輪郭の見えづらい大きな問いに、何度もくじけそうになった半年間。現段階で原さんなりの答えは見えてきたのだろうか…。
「まだまだ漠然としているけど、この先、時代は変わっても、地域のインフラとして必要とされる存在であり続けたいです。近くに頼れる存在があるということを知ってもらいたいし、そこで繋がった縁も大事にしていきたいです。私たちができるのは、空き家対策や生前・遺品整理を通じて、日頃の暮らしを見つめなおし、環境事業に携わっているからこそ伝えられる資源の大切さやリサイクルについての理解を深めてもらうことなのかもしれないと感じています。
人と心を繋ぐことを大切に、皆さんの頼れるパートナーになれるよう、まずは100年企業を目指して地域と一緒に成長していけたらなと思っています」。インタビューをそう締めくくった原さんの表情は、一点の曇りもない、晴れやかな自信に満ち溢れていた。
■取材・文:安達博子
■多様な事業成長を支援し、新しい経済と社会価値を創る「Oita GROWTH Ventures」
公式サイト:https://oita-growth-ventures.com/
主催:大分県
運営:KIHARA Commons 株式会社